スチールMS880のエンジン始動不良|エンジンがかからない依頼

はじめに
「エンジンが掛からない」というご用命でとある修理店に持ち込まれたSTIHLの最高パワーのチェンソーMS 880についての修理記録です。
実は、修理依頼を受けた方は高齢でエンジンを掛けるほどの力/体力がないとのことで半年間ほど苦戦したようです。そんな時に、数日以内に直してくれないか?私に依頼がありました。さすがに半年間直らないことにご依頼者様も堪忍袋の緒が切れてしまったようです。
ちなみにですが、120㏄クラスのエンジン始動は想像以上に大変です。
作業者にパワーがないとスターターロープを引くことが不可能です。

※焼き付きはありませんでした。縦線は傷ではなく混合オイルの線です。
故障診断開始
点火系統



見た感じきれいでメンテナンスもされているように思います。
まずは点火系統から見ることにしましょう。
スパークプラグをチェックしてみると…

新品???
誰が交換したかわからないが、着火させた形跡がありませんでした。
前の修理店で交換したのかもしれないので、点火していないとはこの時点では言えませんでした。
燃料が付着した様子もないし、そもそも間違えたスパークプラグが装着されています。STIHLのエンジンチェンソーは全てレジスター(R)付きのスパークプラグが指定プラグですので。
☜正しくはこちら
このまま使用するとイグニッションモジュールが損傷しますのでスパークプラグを指定プラグに交換します。
→これかなり重要です。
ちなみに、三針火花試験機でイグニッションモジュールから電気がおくられているかチェックしたところ、しっかりときていました。
燃料系統
先ほども触れましたが、スパークプラグに燃料が付着した様子がありません。
燃料系統がかなり怪しいです。
混合燃料は50:1で使用したエンジンオイルはSTIHL純正品だとのことでした。
さて、キャブレターから見てみましょう。

取り外しするのにいくつかの部品を外さないといけません。
取り外してみると側面にはWG12Aと記載がされています。これがキャブレター型式で、メーカーはウォルボロですね。

続いてはダイヤフラムの状態を確認することにします。
消耗品ですから、ここは定期的に交換しないといけない部品です。


左側がメタリングダイヤフラム、右側がポンプダイヤフラムです。
気づきましたか???
メタリングダイヤフラムは濡れていないのに、ポンプダイヤフラムは濡れています。
ポンプダイヤフラム側が上流で、メタリングダイヤフラム側は下流となります。
つまりこの間で燃料の経路が断たれてしまっているんだということが分かります。

原因はこの区間の通路にあるインレットコントロールバルブが張り付いていたのが原因でした。メタリングダイヤフラムの中央にあるボタンのようなものでシーソーの役割をしているレバーを押して、インレットコントロールバルブが持ち上がるはずなのですが持ち上がっておりませんでした。
つまり原因はここ!!
メタリングダイヤフラム室からジェットを通って燃料がエンジンに送り出されるのですが、この区間で燃料が止まってしまったので燃料がエンジン内に供給できずエンジンが掛からなかったのです。
まとめ
- 電気系統・燃料系統どちらの不具合なのか
- 圧縮はあるか
- 電気の流れ・燃料の流れを知る
- 120㏄クラスの機械のエンジン始動はパワーが必要
交換した部品は、スパークプラグ、キャブレターパーツセット、燃料フィルタ、オイルフィルタでした。
入庫から引き渡しまで部品取り寄せもあったので2日で完了となりました。
半年間預かる作業ではないですが…
修理屋の高齢化や閉業など様々な事情が原因となっているんだなと実感しました。
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